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最高裁判所第三小法廷 昭和62年(行ツ)49号 判決 1987年11月24日

上告人

會田内匠

被上告人

長野県知事

吉村午良

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

本件里道が上告人に個別的具体的な利益をもたらしていて、その用途廃止により上告人の生活に著しい支障が生ずるという特段の事情は認められず、上告人は本件用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。本件訴えを却下したからといつて憲法三二条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決(昭和三二年(オ)第一九五号同三五年一二月七日判決・民集一四巻一三号二九六四頁)の趣旨に徴して明らかである。本件訴えが適法であることを前提として本件用途廃止処分の違憲をいう上告人の主張は、失当であり、また、その余の違憲の主張はその実質において単なる法令違背の主張にすぎないところ、原判決に法令違背のないことは、右に述べたとおりである。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官坂上壽夫 裁判官伊藤正己 裁判官安岡滿彦 裁判官長島敦)

上告人の上告理由

一、「原告適格に欠ける」との判決理由について

1 上告人は本件が「法律上の利益を有する者」として行政事件訴訟法第九条に該当することを提起する。

公道は関係住民が常時通行出来ることをもつて公共の福祉を享受するものであり、ために国(県)が管理するものであり、従つて住民が通行出来ることが根幹である。判決に言う「反射的利益に過ぎない」とは即ち「住民に使わせてやる」の意味であり本末転倒であつて主権在民の宣言に反し住民の生活を冒涜、自由を奪うものである。かくの如き判決理由は明かに憲法第一一条及び第一二条に示めす基本的人権の享有並びに自由及び権利の保障の定めに違反する。よつて本件訴訟は原告適格と解するのが相当である。

2 更に行政事件訴訟法第三六条も又前項の主旨に沿うものであり原告適格に当る。

二、用途廃止処分の違法性

1 道路法による道路のみが道路であるかの言辞を弄しているが認定外道路と言えども公共財産である限り「自由な通行」においては平等である。

しかるに判決理由を見るに「元来形態はどうであつたか」「何故現在利用されていないか」等のよつて来たる原因につき基本的な事項が全く引出されていない。故に訴外人が管理の甘さを衝いて不法占拠し作為的な謀略による妨害、変形を行つた事はむしろ当然の帰結と言わざるを得ず管理者不在による不法占拠の重大性が全く認識されていない。そのために違法の上に違法を重ねる結果となり善良なる関係住民の基本的人権と自由及び権利の保障が蹂りんされたことは憲法第一一条及び第一二条に違反するものである。

2 一般の行政庁で現在は多額の予算により道路用地の取得をするときに、折角無償に近い貴重な道路用地を住民の必要の叫びを他所に本来不法占拠者に撤去命令を発動すべき管理者が住民の通行の自由まで奪つて不法占拠者の所有権取得の手配りまでする必然性は全くない。誠にもつて言語道断と言わざるを得ず正に職権濫用そのものであり公序良俗に反するもので用途廃止処分は明らかに無効である。

三、「その他認めるべき証拠がない」としていることについて

上告人が已に提出した別紙四の旧土地台帳附図(公図)は明治廿三年一二月調製のもので曖昧な伝承よりも証拠力において唯一、無二の絶対のものでありこれを除いて他に何があろうか、尊重に値いする。

四、上告人の法的地位について

1 憲法第三二条に裁判を受ける権利が保障されている。所謂門前払は同法に抵触する。

2 憲法第九七条は基本的人権の不可侵を同第九八条は国の最高法規であつてその條規に反する法律、命令……及び国務に関するその他の行為の全部又一部は効力を有しない。

と断言している。

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